小説

  • 小説「適切」
    適切  大丈夫? とか、なんかあった? とか、朝からそういうことしか聞かれなくて嫌になる。心配は善だという世間一般の価値観が間違っているとは思わないけれど、こうも同じことしか聞かれないのはうんざりだ。 とはいえ、窓ガラス […]
  • 小説「予行練習」
     なぜ僕には友達がいないんだろう、と國光さまが唐突に言ったのは、食事を終えて部屋に戻られてからすぐのことだった。少し困惑しつつ、いらっしゃらないのですか、とおうむ返しに聞く。まあいないだろうな、というのが本音ではある。こ […]
  • 小説「悪魔のごちそう」
     昔々、ある王国に、ふしぎな悪魔がいました。悪魔といっても、人を呪ったり、傷つけたりするいきものではありません。それは、人間の感情を食べる悪魔でした。よろこび、かなしみ、いかり……人間に発生した感情は、目に見えていないだ […]
  • 小説「大人と子ども」
     失うものなんてなにもないんだと気づいてしまったら、もうとまらなかった。 手首を掴んで黒板に体を押し付けると、辻ちゃんはあきらかに強張った顔をした。飯田、と辻ちゃんが引きつった声で言う。飯田、やめなって、飯田。乱暴に腕を […]
  • 小説「Hello,」
     ハロはおれをじいちゃんに似ていないというけれど、写真を見る限り、それは嘘だと思う。魚屋の松じいも畳屋の元じいも、おれの顔を見るたびに若いころのじいちゃんに似ているって言うし。ハロだけが、似てない、まったく似てない、と頑 […]
  • 小説「勇者と魔王」
     二週間ぶりに見る勇者の顔には、また傷が増えていた。やあ、という気楽な声と共に上げられた右腕には、真新しい包帯が巻かれている。「久しぶり。どうだい、調子は」「お前よりは良いだろうな」「それはよかった」 部屋の端に置かれて […]
  • 小説「薄い布団」
     いなくなっていてほしい、と思う。それと同じくらい、いてほしい、とも思う。矛盾を鼻で笑いながらドアを開けると、すぐに、おかえり、と声がした。小さなため息が漏れる。「……ただいま」 そう返事をしてから、素直に返事をした自分 […]
  • 小説「虎」
     さびれた田舎町に動物園なんていう立派なものがあるはずもなく、だから俺の中で虎といえばずっとトラくんのことだった。トラくんは本名をタイガーといい、漢字では虎牙と書く。小学生のころはかっこいいと思っていたけれど、大人になっ […]
  • 小説「幽霊と住んでいる」
     大野です、幽霊と住んでいます、というのが、隣に引っ越してきた大野さんの、最初の挨拶だった。手土産の紙袋を受け取りながら、あたしは、はあ、幽霊、と気の抜けた返事をすることしかできなかった。何を言っているんだこの人は、と思 […]
  • 小説「操縦席のきみ」
     幼馴染が、ロボットに乗るらしい。ロボット。ロボット? 言っている意味がよくわからなくて、頭の動きが止まる。意味わかんないよな、と悠人が苦笑した。うん、意味わかんねえ、と呆けた声で返す。DAMチャンネルをご覧の皆さまこん […]
  • 小説「案外悪くない」
     あなた今幸せですか、というのは、どうやらテレビによって生み出された架空の宗教勧誘のイメージだったらしい。この部屋には今悪い氣が漂っています! と自信満々に言う、年齢不詳の女性の話に適当な相槌を打ちながら、そんなことを考 […]
  • 小説「ファンレター」
     これは文房具屋でレターセットを選びながら気づいたことなのだけれど、僕は人に手紙を書いたことがないらしい。驚いた。もしかしたら僕の覚えていない、遠い過去で誰かに手紙を書いたことならあるのかもしれないけれど、覚えていない、 […]
  • 小説「透はうつわの中」
     透は今日から、うつわに入って生活することにしたらしい。透、というのはぼくの恋人の名前である。もともと小柄な子だったけれど、まさかうつわに入るほど小さくなるとは、ぼくも思ってもいなかった。こういう少女漫画が、昔あったよう […]
  • 小説「きみは主人公」
     百目鬼キリは、やたらとゴテゴテといかつい名前以外は、きわめて普通の同級生だった。しいて言うなら、成績も運動神経も交友関係も、すべてが普通過ぎるところがむしろ変かもしれない。けれどそれは別に、百目鬼本人が意識して『普通』 […]
  • 小説「とぅ・びー・こんてにゅーど」
     飼い主の女が死んだ。長いヒモ生活の中で、痛烈なビンタで以て別れを告げられたことは幾度もあれど、死なれるのは初めてだった。「ってわけで、死のうと思うんですよね」「はあ」 タクシーの運転手の女は淡々とそう返し、ハンドルを左 […]